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気まぐれ Art note

洲之内徹が連載した「気まぐれ美術館」に憧れてます。

女神ニケのこと

▪️勝利することの意味
 
5月18日からリニューアルのため長期的な休館に入るというブリヂストン美術館の入口左手に、クリスチャン・ダニエル・ラウホ「勝利の女神」の彫刻があり、今しか見られない!! と思って観てきました。

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しかし勝利の女神ニケといえば、NO.1は
地中海のサモトラケ島から出土した古代の彫刻「サモトラケのニケ」です。
ある時、衝動的にニケの実物が観たいと強く思い、パリのルーヴル美術館に行ってニケの前に数日間何時間も立っていたことがあります。ニケのことを語るとき、私には美術大学の教科書に書かれていたギリシャ彫刻についての文章を抜きにして語ることができません。
*以下抜粋
「〔ヘレニズムの女神像〕最期に「ミロのヴィーナス」についてひとこと触れておこう。ギリシャ彫刻の女神像で「ミロのヴィーナス」はあまりに有名だし、ルーヴル美術館の至宝と呼ばれることも多い。では、これは傑作なのだろうか。
 実はギリシャ彫刻史ではこの像を傑作とは考えない。それというのも、頭部が小さく、全体のバランスが今ひとつだ。よく見ると、頭部の目や口は小さく、喜怒哀楽の表情は見せない。それに対し首から下の身体にはかなりひねりが効いて、正中線(身体の中心を通る線)は大胆なS逆字を描く。なかなか官能的なポーズである。美術様式からすると、頭部はクラシック、首から下はヘレニズムで、二つの様式を併用した折衷様式である。頭部を非常に古風に仕上げた、復古調のヴィーナス像ともいえる。(略)しかし、クラシック期からヘレニズム期にかけての等身大以上の女神像原作のうち、頭部が残る作例は、今のところ地上にこの像だけで、この希少価値から「ミロのヴィーナス」は特別扱いを受けている。彫刻の質からいえば、同じルーヴル美術館のヘレニズム彫刻「サモトラケのニケ」のほうがずっと上だ。勝利の女神ニケは、大きく翼をひろげ、勝利をもたらす船の舳先に舞い降りようとしている。強い逆風を受けてひるがえる衣の襞と、身体にみなぎる躍動感は、「ミロのヴィーナス」にはない新鮮な驚きに満ちている」。
(第1章古代 執筆:中村るい 北澤洋子監修『西洋美術史』(武蔵野美術大学出版局))
 

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「強い逆風を受けてひるがえる衣の襞と、身体にみなぎる躍動感」。

 

打ちのめされてもう立ち上がれないと思ったときに、この像を観に行きました。
ニケを観に行くと言ったら、ある人がこんな言葉をくれました。
「多くの人がルーヴルのニケの前に立つけれど、その肩の向こうにあるものを見る人は少ない」

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あれから数年経ちます。見たからと言って、なにかに勝利したという気はしません。
ただひとつだけ言えるのは、今は立っています。向かおうとすることができています。